人事 #退職手続き#労務管理#就業規則

退職願・退職届の撤回は認めるべきか|受理と承諾の違い、撤回できる期限、会社の対応手順

退職の申出には、会社の承諾で成立する「合意解約の申込み」と、一方的に辞める「辞職の意思表示」があり、撤回できるかどうかが違います。退職願と退職届の扱い、誰が承諾すれば撤回できなくなるか、裁判例の考え方、撤回を求められたときの対応手順と規程の整え方を整理します。

対象読者
退職の申出を受けた後に撤回を求められた人事・総務担当者、管理職
難易度
実務
所要時間
読了8分
最終確認日

この記事のポイント

  • 退職願は合意解約の申込みと扱われることが多く、会社が承諾する前であれば、原則として撤回できる。辞職の意思表示(退職届)は会社に届いた時点で撤回が難しくなる
  • 承諾できるのは退職を決める権限のある人。権限のある人が受理すると、その時点で承諾したと判断された裁判例がある
  • トラブルを防ぐには、退職承認の権限者と手続き、承諾の通知方法を就業規則に定め、受理したらすぐ書面で承諾を伝える

「先週出した退職願を、やはり取り下げたい」。退職の申出を受けて後任の手配を始めた矢先に、こう言われることがあります。撤回を受け入れるべきか、断れるのかは、申出の性質と、会社がすでに承諾していたかで変わります。

この記事では、退職の申出の撤回について、厚生労働省が紹介している裁判例の考え方に沿って、会社の対応を整理します。退職の申出を受けたときの基本的な流れは退職の申し出を受けたらを参照してください。

退職の申出には2つの種類がある

種類 意味 契約が終わる時点 撤回
合意解約の申込み 「辞めたいので認めてほしい」と会社に申し込む 会社が承諾したとき(合意した退職日) 会社が承諾する前なら、原則として撤回できる
辞職の意思表示 会社の承諾に関係なく、一方的に契約を終わらせる 期間の定めのない雇用は、申入れから2週間経過(民法第627条第1項) 会社に届いた後は、原則として撤回できない

一般に、「退職願」は合意解約の申込み、「退職届」は辞職の意思表示と説明されます。ただし、実際にどちらに当たるかは、書類の名前だけでなく、文面や提出の経緯から判断されます。「退職届」という名前でも、会社の承認を前提とした内容なら、合意解約の申込みと扱われる可能性があります。

迷う場合は、本人に不利にならないよう、合意解約の申込みと考えて対応するのが安全です。

撤回できる期限:会社が承諾するまで

厚生労働省の「確かめよう労働条件」の裁判例の解説では、次のように整理されています。

  • 労働者が退職の意思を示し、会社の権限のある者が承諾すると、合意解約が成立する
  • 承諾する前であれば、退職の意思を撤回できる
  • ただし、撤回によって会社に不測の損害を与えるなど、信義に反すると認められる特別な事情がある場合は、撤回は認められない

つまり、ポイントは「誰が」「いつ」承諾したかです。

権限のある人の受理は承諾になりうる

紹介されている裁判例(大隈鐵工所事件・最高裁昭和62年9月18日判決)では、従業員が人事部長に退職願を出し、翌日に撤回を申し出ました。最高裁は、人事部長に退職願を承認する権限を与えることは不合理ではなく、人事部長が退職願を受理したことで、会社が即時に承諾の意思を表示したと判断しました。また、承諾は就業規則などに特別の定めがない限り、辞令書の交付などの一定の方式によらなければならないものではないとしました。

逆に言えば、退職を決める権限のない人(たとえば直属の課長)が受け取っただけの段階では、まだ承諾していないと判断される可能性があります。

撤回を求められたときの対応手順

  1. 受け取った書類と経緯を確認する:書類の名前と文面、提出日、誰が受け取ったか、承諾を伝えたか、その方法と日時
  2. 承諾の有無を判断する:退職承認の権限者が承諾し、それを本人に伝えていたか
  3. 会社の状況を確認する:後任の採用内定を出した、取引先に担当変更を通知したなど、撤回で生じる具体的な支障があるか
  4. 方針を決める:撤回を認めるか、認めないか。認めない場合も、本人に理由を説明する
  5. 結果を書面で残す:撤回を認める場合は「退職願の撤回を承認した」旨、認めない場合は「すでに承諾済みであり、退職日は○月○日のまま」である旨を通知する

承諾前の撤回を会社が拒むと、退職扱いが無効と判断され、退職日以降の賃金を請求されるおそれがあります。承諾前であれば、撤回を受け入れるのが原則です。

撤回を受け入れた後に行うこと

  • 進めていた退職手続き(社会保険・雇用保険の資格喪失、住民税の切替えなど)を止める
  • 後任の募集や社内外への通知を取り消す
  • 退職を前提に年次有給休暇の消化計画を立てていた場合は、取り扱いを本人と確認する

退職の意思表示が無効・取消しになる場合

撤回とは別に、退職の申出自体が効力を持たない場合もあります。厚生労働省の解説では、真意でない申出、錯誤による申出、懲戒処分の理由がないのに処分をほのめかされて出した申出などが挙げられています。

退職勧奨の場面で「辞めないなら懲戒解雇だ」と迫って退職願を書かせると、後から取り消しや無効を主張されるおそれがあります。退職勧奨の進め方は退職勧奨の進め方を参照してください。

トラブルを防ぐ規程と運用

撤回をめぐる争いの多くは、「いつ承諾したのか」がはっきりしないことから起きます。次の点を就業規則と運用で決めておきます。

決めておくこと 例
退職の申出の方法 所定の退職願を所属長経由で人事部に提出する
退職を承認する権限者 人事部長(または社長)が承認する
承諾の通知方法 承認後、退職承諾通知書を本人に交付する(メール可)
申出の時期 退職日の1か月前までに申し出るよう努める(協力のお願い)

就業規則の「1か月前までに申し出る」という定めがあっても、期間の定めのない雇用では、民法第627条により申入れから2週間で契約が終わるとされている点に注意してください。

退職願の様式は退職願のテンプレート、退職が確定した後の手続きは退職手続きチェックリストと退職時の手続き一覧を使うと漏れを防げます。

よくある質問

口頭で「辞めます」と言われただけでも退職は成立しますか

口頭でも退職の意思表示は成立しえます。ただし、退職日や申出日をめぐって争いになりやすいため、必ず書面(退職願)を出してもらいましょう。

有期契約の社員から契約期間の途中で退職届が出されたら

有期契約は、やむを得ない事由がある場合に直ちに解除できるとされています(民法第628条)。期間途中の退職は、本人と話し合って合意で退職日を決めるのが現実的です。

まとめ

  • 退職願は合意解約の申込みとされることが多く、会社が承諾する前なら原則として撤回できる
  • 退職承認の権限がある人の受理は、その時点で承諾と判断されることがある
  • 承諾前の撤回を拒むと、退職扱いが無効とされるおそれがある
  • 承認の権限者・承諾の通知方法を規程に定め、受理したら速やかに書面で承諾を伝える

この記事で使えるテンプレート

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