通勤災害の範囲と手続き|合理的な経路・逸脱と中断・日常生活上必要な行為の判断
通勤途中のけがが労災保険の通勤災害になるかは、「就業に関し」「合理的な経路・方法」「逸脱・中断」の3点で判断します。3種類の移動、寄り道をしたときの扱い、日常生活上必要な5つの行為、業務災害との違い、請求書の様式、交通事故のときの第三者行為災害届までを労働局の資料をもとに整理します。
- 対象読者
- 従業員30〜300名の企業で、労災の手続きを担当する人
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 通勤は、住居と就業の場所の往復、就業の場所から他の就業の場所への移動、単身赴任先と帰省先の住居間の移動の3種類。合理的な経路・方法であることが必要
- 経路をそれる(逸脱)・通勤と関係ない行為をする(中断)と、その間と後は通勤にならない。日用品の購入や通院など日常生活上必要な行為を最小限で行った場合は、経路に戻った後は再び通勤になる
- 請求書は通勤災害用の様式(療養は16号の3・16号の5、休業は16号の6)。待期3日間の会社の補償義務はなく、休業給付から一部負担金200円が差し引かれる
「帰りにスーパーに寄ったら、そのあとの事故は労災になるのか」。通勤災害の相談で多いのが、寄り道をしたときの扱いです。通勤災害は、通勤の途中であれば何でも対象になるわけではありません。どんな移動を、どんな経路で、どんな目的で行っていたかで判断します。
この記事では、通勤災害の範囲の考え方と、会社が行う手続きを整理します。業務中のけがを含む初動対応は労災が起きたときの会社の対応を参照してください。
「通勤」の定義
労災保険法7条では、通勤を「労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うこと(業務の性質を有するものを除く)」としています。
対象となる3種類の移動
| 移動 | 例 |
|---|---|
| ① 住居と就業の場所との間の往復 | 自宅から会社への出勤・帰宅 |
| ② 就業の場所から他の就業の場所への移動 | 副業・兼業をしている人が、A社からB社へ移動する |
| ③ ①に先行・後続する住居間の移動(一定の要件あり) | 単身赴任先の住居と、家族のいる帰省先住居との移動 |
②は副業・兼業をする人に関係します。会社としての管理は副業・兼業の認め方や二以上事業所勤務の手続きもあわせて確認してください。
判断のポイント
| 要素 | 労働局の説明(要旨) |
|---|---|
| 就業に関し | 往復が業務と密接な関連をもって行われること。ラッシュを避けるための早めの出勤なども含まれる |
| 住居 | 日常生活に使い、就業の拠点となる場所。就業のために別に借りたアパートなども住居になる |
| 就業の場所 | 業務を始める・終える場所。外勤の人は最初と最後の用務先 |
| 合理的な経路・方法 | 通常使う経路なら複数あってもよい。マイカー通勤で車庫を経由する経路なども含む。著しい遠回りは含まない |
| 業務の性質を有するもの | 会社が用意した専用の交通機関での出退勤や、休日の緊急呼出しによる出勤は、通勤災害ではなく業務災害 |
会社に届け出た経路と違っても、合理的な経路であれば通勤と認められることがあります。逆に、届け出た経路でも、上の要件を満たさなければ通勤になりません。通勤手当の届出経路は通勤手当の非課税限度額と社会保険上の扱いで管理しますが、労災の判断とは別のものと考えましょう。
逸脱・中断の扱い
原則:その間とその後は通勤にならない
- 逸脱:通勤の途中で、就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれること
- 中断:通勤の経路上で、通勤と関係のない行為をすること
大阪労働局は、通勤の途中で映画館に入る、バーで飲酒するといった例を挙げています。逸脱・中断があると、その間と、その後の移動は通勤になりません。
ただし、経路の近くの公衆トイレを使う、経路上の店でタバコやジュースを買うといったささいな行為は、逸脱・中断にあたりません。
例外:日常生活上必要な行為
逸脱・中断が、日常生活上必要な行為として厚生労働省令で定めるものを、やむを得ない事由で最小限度行うものである場合は、逸脱・中断の間を除き、合理的な経路に戻った後は再び通勤になります。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法の学校での教育など、職業能力の開発向上に資する教育訓練を受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院または診療所で診察または治療を受けることその他これに準ずる行為
- 要介護状態にある家族などの介護(継続的または反復して行われるものに限る)
ケースで考える
| ケース | 判断の目安 |
|---|---|
| 帰宅途中、経路上のコンビニで飲み物を買う | ささいな行為。通勤のまま |
| 帰宅途中、経路を外れたスーパーで夕食の食材を買い、経路に戻ってから事故 | 日用品の購入。戻った後は通勤 |
| 買い物の最中に店内で転倒 | 逸脱・中断の間なので通勤にならない |
| 退勤後に同僚と居酒屋で飲み、その帰りに事故 | 中断後の移動。原則として通勤にならない |
| 退勤後、通院してから帰宅途中に事故 | 診察・治療。戻った後は通勤 |
最終的な判断は労働基準監督署が行います。会社が「通勤災害にならない」と決めつけて請求を止めることは避け、判断に迷うときは監督署に相談しましょう。
業務災害との違い
| 項目 | 業務災害 | 通勤災害 |
|---|---|---|
| 給付の名称 | 療養補償給付、休業補償給付など | 療養給付、休業給付など(「補償」が付かない) |
| 療養の請求書 | 様式第5号/第7号 | 様式第16号の3(給付)/第16号の5(費用) |
| 休業の請求書 | 様式第8号 | 様式第16号の6 |
| 待期3日間の会社の補償 | 労働基準法上の義務あり | 義務なし |
| 一部負担金 | なし | 原則200円(休業給付から差し引き) |
| 労働者死傷病報告 | 休業4日以上などで提出 | 提出不要 |
福島労働局は、休業給付は賃金を受けない日の4日目から、給付基礎日額の60%(別に特別支給金20%)が支給されるとし、通勤災害の場合は一部負担金として200円(健康保険の日雇特例被保険者は100円)が減額されるとしています。
会社の手続き
| いつ | 誰が | どこに | 何を |
|---|---|---|---|
| 事故の連絡を受けたら | 会社 | ― | 日時・場所・経路・移動の目的・寄り道の有無を本人から聞き取り記録する |
| 受診時 | 本人 | 労災指定医療機関 | 通勤災害であることを伝え、様式第16号の3を提出 |
| 指定外で受診した場合 | 本人 | 労働基準監督署 | 様式第16号の5で費用を請求 |
| 休業したとき | 本人(会社が証明) | 労働基準監督署 | 様式第16号の6 |
| 交通事故など第三者の行為による場合 | 本人(会社が支援) | 労働基準監督署 | 第三者行為災害届(給付の請求書より前か同時に) |
請求書には、通勤の経路・方法や、事故が起きた場所を記入する欄があります。聞き取りの段階で、地図や経路の画像を残しておくと記入がスムーズです。
交通事故は第三者行為災害
通勤中の交通事故の多くは、相手のいる「第三者行為災害」です。富山労働局は、第三者行為災害届を給付の請求書に先立って、または同時に提出するよう求めており、交通事故の場合は交通事故証明書なども添付します。相手方の自動車保険と労災保険の給付は調整されるため、本人が示談を急がないよう、早めに監督署に相談するよう伝えましょう。
会社で決めておきたいこと
- 通勤経路の届出と、変更時の届出のルール
- マイカー・自転車通勤を認める条件(任意保険の加入、駐車場の扱い)
- 事故の連絡先と、聞き取り項目のひな形
- テレワーク日に出社する場合の経路の扱い(テレワーク規程)
まとめ
- 通勤は3種類の移動を、就業に関し、合理的な経路・方法で行うもの。業務の性質があれば業務災害になる
- 逸脱・中断の間と後は通勤にならない。日常生活上必要な5つの行為を最小限行った場合は、経路に戻った後は通勤になる
- 請求書は通勤災害用の様式(16号の3・16号の5・16号の6)。待期3日の会社補償はなく、一部負担金200円がある
- 交通事故は第三者行為災害届を早めに出す。判断に迷ったら監督署に相談する