政府の「ジョブ型人事指針」を中小企業はどう読むか|20社の事例の骨格、管理職から始める導入範囲、職務記述書・手当見直しと移行措置
内閣官房・経済産業省・厚生労働省が2024年8月に公表した「ジョブ型人事指針」は、導入済み20社の事例集です。指針が整理している5つの観点、従業員約900人規模の企業が管理職だけに導入した例、職務記述書の作り方、手当の廃止と激変緩和措置、不利益変更の注意点を、中小企業が4月の制度改定を考える視点で整理します。
- 対象読者
- 2027年4月以降の人事制度改定を検討している従業員30〜300名の企業の人事担当者・経営者
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この記事のポイント
- ジョブ型人事指針は、導入済み20社の目的・制度の骨格・雇用管理・権限分掌・導入プロセスを整理した事例集で、一律の型を求めるものではない
- 事例には、非管理職は育成期と位置づけて対象外とし、管理職だけに役割等級と職務記述書を導入した企業もある。中小企業は範囲を絞って始める選択肢がある
- 手当の廃止や等級の付け替えは不利益変更になり得る。賃金原資の維持、従前額での移行、漸減措置などの激変緩和と、従業員への説明を組み合わせる
「ジョブ型人事」という言葉はよく聞くものの、従業員100人前後の会社にそのまま当てはまるのか、判断に迷う人事担当者は多いはずです。政府は2024年8月28日、内閣官房・経済産業省・厚生労働省の連名で「ジョブ型人事指針」を公表しました。中身は、すでに導入している企業20社の事例集です。この記事では、指針の構成と、中小企業が2027年4月の制度改定などで参考にできる点を整理します。
指針の位置づけ
指針は、2024年6月21日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」で策定するとされたものです。職務(ジョブ)ごとに求めるスキルを明らかにし、従業員が自分の意思でリ・スキリングや職務を選べる制度への移行を進めるという考え方に立っています。
一方で指針は、企業の経営戦略や歴史は千差万別であるとして、自社のスタイルに合った導入方法を各社が検討できることが大切としています。「この型に移行しなければならない」という基準を示すものではありません。
指針が整理している5つの観点
指針では、20社それぞれについて次の観点で情報を整理しています。自社で検討するときのチェックリストとしても使えます。
| 観点 | 自社で検討すること |
|---|---|
| 1. 導入目的・経営戦略上の位置付け | 採用競争力、専門人材の確保、若手の抜てきなど、何を解決したいのか |
| 2. 制度の骨格(導入範囲・等級・報酬・評価) | 対象を全社にするか一部にするか。等級を職務・役割で決めるか |
| 3. 雇用管理(採用・異動・キャリア自律支援・等級の変更) | 社内公募や本人の希望を異動にどう反映するか |
| 4. 人事部と各部署の権限分掌 | 職務の定義や処遇の決定を、誰がどこまで担うか |
| 5. 導入プロセス(労使コミュニケーション等) | 説明・協議の進め方、移行措置 |
中小企業の参考になる事例
指針の20社には大企業が多いものの、導入範囲や移行の工夫は規模にかかわらず参考になります。
管理職だけに導入した例
東洋合成工業株式会社(2024年3月末時点の従業員数932人)は、もともと創業社長が陣頭指揮を執る中小企業で、人事機能が限られ、採用で報酬水準が足りずオファーを辞退されることも多かったと紹介されています。同社の主な設計は次のとおりです。
- ジョブ型人事の対象は管理職のみ。非管理職は「時間をかけて育てる時期」として、行動や挑戦を評価する「発揮能力等級」を導入した
- 管理職は「マネジメントコース」と「プロフェッショナルコース」に分け、制度改定時に全管理職の職務記述書を作成した
- 管理職の住宅手当・家族手当を廃止し、漸減措置を講じた。一方で係長・主任には育成手当を新設した
- 評価制度のルールや手続を社内に公開し、「評価面談」を「育成面談」に改めた
- 新制度への移行時は、管理職を従前の報酬額に合う等級レンジにいったんそのまま移し、全体の賃金原資は変えなかった
職務記述書は完成度を求めずに作った例
富士通株式会社は、市場でテンプレート化されたものをもとに標準的な役割の定義を作り、そこに個々の職務内容を書き足す方法で職務記述書を作成しました。最初から完成度の高さは求めず、使いながら改善する方針だったとされています。
中小企業で始めるときの手順
- 目的を1つに絞る:「管理職の役割を明確にしたい」「専門職を採用しやすくしたい」など
- 範囲を決める:管理職や特定の職種から始める。全社一斉にしない選択肢もある
- 職務・役割を書き出す:職務記述書は1ポジション1枚から。書き方は職務記述書の書き方を参照。業種別の職務行動例は厚生労働省の「職業能力評価基準」が参考になる
- 等級と報酬レンジを決める:職務・役割の大きさで等級を分け、等級ごとの賃金の幅を決める(賃金テーブル・等級制度のつくり方)
- 評価のしかたをそろえる:役割の達成を何で見るかを決め、評価シートに落とす
- 移行措置と説明:次の章のとおり
手当の廃止・等級の付け替えと不利益変更
手当の廃止や、等級の付け替えで賃金が下がる人が出る変更は、労働条件の不利益変更に当たる可能性があります。労働契約法第9条は、労働者と合意することなく就業規則の変更で労働条件を不利益に変更することはできないとし、第10条は、変更後の就業規則を周知させ、変更が不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的な場合に限り、変更後の労働条件によるとしています。
指針の事例で使われている工夫を、合理性を高める手段として整理すると次のとおりです。
| 工夫 | 内容 |
|---|---|
| 賃金原資の維持 | 制度変更を人件費削減の手段にしない |
| 従前額での移行 | 移行時は今の報酬額に合う等級・レンジに格付けし、その後の評価で昇降させる |
| 漸減措置 | 廃止する手当を数年かけて段階的に減らす |
| 代わりの処遇 | 育成手当の新設など、役割に応じた支給を設ける |
| 協議と説明 | 労働組合や従業員代表と課題認識から協議し、制度とルールを公開する |
従業員説明会の進め方は人事制度を変えるときの従業員説明会にまとめています。
2027年4月改定に向けたスケジュール例
| 時期 | 作業 |
|---|---|
| 11月〜12月 | 目的と対象範囲を経営と決める。対象者の現在の賃金を一覧にする |
| 1月 | 職務記述書・等級定義の案を作る。移行シミュレーションで賃金が下がる人を確認 |
| 2月 | 移行措置を決め、就業規則・賃金規程の改定案を作る。説明会を実施 |
| 3月 | 意見聴取・届出。個別面談で新しい等級と賃金を通知 |
| 4月 | 新制度開始。半年後に運用を点検 |
準備が間に合わない場合は、4月は職務記述書と評価項目の整備までにとどめ、賃金制度の切替えは翌年度にするなど、段階的に進めます。
まとめ
- ジョブ型人事指針は20社の事例集で、自社に合った導入方法を検討するための材料
- 管理職だけに導入し、非管理職は育成期とする設計もある。中小企業は範囲を絞って始められる
- 職務記述書は完成度を求めず、使いながら改善する
- 手当の廃止や賃金が下がる変更は不利益変更になり得る。賃金原資の維持、従前額での移行、漸減措置、協議と説明を組み合わせる