合理的配慮にAIツールを活用する:音声認識・読み上げ・図を使ったマニュアルで、障害のある社員の働きやすさを整える手順
合理的配慮指針は、聴覚障害のある人への筆談やメールの利用、視覚障害のある人への音声ソフトの活用、図を使った業務マニュアルの作成などを例に挙げています。音声認識や読み上げ、生成AIを配慮の手段として使うときの進め方を、本人との話合い、障害に関する情報の扱い、職場への説明とあわせて整理します。
- 対象読者
- 障害のある社員の合理的配慮を担当する従業員30〜300名の企業の人事担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了8分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 配慮の内容は、本人の申出と話合いで決める。AIツールは選択肢の一つで、本人の意向を確かめずに導入しない
- 合理的配慮指針の例(筆談・メールの利用、音声ソフトの活用、図を使ったマニュアル、指示を一つずつ出す)は、音声認識や生成AIで実現しやすい
- 障害に関する情報は要配慮個人情報に当たる。生成AIに本人の障害や診断名を入力せず、マニュアルや手順の作成だけに使う
障害のある社員から「会議の内容が聞き取れない」「口頭の指示を一度に覚えられない」と相談されたとき、音声認識や読み上げ、生成AIは、比較的少ない費用で試せる配慮の手段になります。
一方で、ツールを入れれば済むわけではありません。この記事では、合理的配慮の手段としてAIツールを使うときの進め方を、本人との話合いと情報の扱いを中心に整理します。合理的配慮の全体の流れは障害のある従業員への合理的配慮の進め方を参照してください。
合理的配慮の基本の流れ
障害者雇用促進法は、事業主に障害のある労働者への合理的配慮の提供を義務づけています。厚生労働省の事業主向けリーフレットは、採用後の手順を次のように示しています。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 配慮が必要な人の把握・確認 | 一斉メールや社内報など画一的な方法で申出を呼びかける |
| 2 必要な配慮の話合い | 障害の状況、支障となっている事項、配慮への意向を本人に確認する |
| 3 合理的配慮の確定 | 本人の意向を尊重して決め、本人に伝える。希望と異なる措置にする場合は理由を説明する |
| 4 職場内での意識啓発・説明 | 説明の内容や範囲は本人と十分に打ち合わせる |
同じリーフレットは、配慮が「過重な負担」に当たるかを、事業活動への影響、実現の難しさ、費用、企業の規模、財務状況、公的支援の有無の6つの要素で総合的に判断するとしています。AIツールを検討するときも、費用や公的支援の有無を含めて、この6つの要素に照らして判断します。
指針の例とAIツールの対応
合理的配慮指針の別表には、障害の区分ごとの配慮の例が挙がっています。このうち、AIツールで実現しやすいものを整理しました。
| 指針の例 | AIツールでの実現例 |
|---|---|
| 業務指示・連絡に際して、筆談やメール等を利用する(聴覚・言語障害) | 会議や朝礼で音声認識の文字表示を使う。指示はチャットで文字でも送る |
| 拡大文字、音声ソフト等の活用により業務が遂行できるようにする(視覚障害) | 画面読み上げ、文書の読み上げ機能を使う |
| 図等を活用した業務マニュアルを作成する、業務指示は内容を明確にし一つずつ行う(知的障害) | 生成AIで手順を1ステップずつに分け、図や写真を入れる箇所を示した下書きを作る |
| 業務の優先順位や目標を明確にし、指示を一つずつ出す(精神障害) | 長い依頼文を生成AIで「やること・期限・優先順位」の箇条書きに整える |
| 面接・採用試験について、文字によるやりとり等を行う(発達障害) | 面接の質問を事前に文字で渡す。チャットでの質疑を認める |
厚生労働省の合理的配慮指針事例集は、音声認識ソフトやアプリについて、会議や朝礼、作業指示の際に筆談や手話を使わずに必要な事項を伝えられると紹介しています。同じ事例集では、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構による就労支援機器の貸出しも紹介されています(音声認識ソフトなど一部は貸出対象外)。
手順1:本人と話し合って試す
ツールを決める前に、本人と次の点を話し合います。
- 今、どの場面で困っているか(会議、電話、口頭の指示、紙の書類など)
- これまで使ったことがある方法と、使いやすかったもの
- 試す期間と、うまくいかなかったときに戻す方法
1〜2週間試してから、本人の感想をもとに続けるか決めます。音声認識は、話し手の話し方や専門用語で精度が変わります。会議では「一人ずつ話す」「専門用語は登録する」など、周りの協力もあわせて決めておきます。
手順2:生成AIで分かりやすいマニュアルを作る
業務マニュアルを一つずつの手順に分ける作業は、生成AIが得意です。入力するのは業務の手順だけで、本人の情報は入れません。
次は、経費の申請書をシステムに入力する作業の手順です。
初めてこの作業をする人向けに、次のルールで書き直してください。
・1つの手順には1つの動作だけを書く
・「適宜」「しっかり」など、人によって受け取り方が違う言葉は使わない
・画面の写真を入れるとよい箇所に【写真】と書く
・最後に、終わったことを確認するチェック項目を3つ書く
(現在の手順書)
できあがった手順は、本人に実際に使ってもらい、分かりにくいところを直します。マニュアル作り全般は業務マニュアルをAIで作って属人化を解消するも参照してください。
障害に関する情報の扱い
個人情報保護法ガイドライン(通則編)は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)などの心身の機能の障害があることを、要配慮個人情報に当たる記述として挙げています。
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 生成AIでマニュアルや依頼文を整える | 業務の内容だけを入力する。本人の名前、障害の種類、診断名は入れない |
| 音声認識で会議を文字にする | 会議の参加者に文字化することを伝える。記録の保存先と期間を決める |
| 配慮の内容を職場に説明する | 説明する内容と範囲を本人と決めてから行う |
| 配慮の記録 | 話合いの記録は人事が管理し、閲覧できる人を限定する |
生成AIに個人データを入力する場合の注意点は、個人情報保護委員会の注意喚起で示されています。音声認識のサービスも、入力した音声や文字がどう扱われるかを利用規約で確かめてから使います。
「AIを使えば配慮できる」と会社が一方的に決めるのではなく、本人の意向を確かめて決めることが前提です。ツールが合わない場合は、筆談や担当者の配置など、ほかの方法も検討します。
まとめ
- 配慮の内容は本人との話合いで決め、AIツールは試してから続けるか判断する
- 指針の例(筆談・メール、音声ソフト、図を使ったマニュアル、指示を一つずつ)は、音声認識や生成AIで実現しやすい
- 障害に関する情報は要配慮個人情報。生成AIには入力せず、手順書や依頼文を整える用途に限る
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