安否確認の仕組みづくり:連絡網と安否確認サービスの選び方、発動基準、年2回の訓練の進め方
地震や台風の後、従業員の無事を確かめる安否確認は、事業を続けるための最初の一歩です。連絡網・チャット・安否確認サービスの比較、自動送信の発動基準、質問項目、連絡先データの管理、回答率を上げる訓練の進め方まで、総務が整える仕組みを整理します。
- 対象読者
- 防災・BCPを担当する従業員30〜300名の企業の総務担当者
- 難易度
- 実務
- 所要時間
- 読了9分
- 最終確認日
この記事のポイント
- 安否確認は「誰が・いつ・何で・何を聞き・どう集計するか」を決めておく。発動基準(例:震度5強以上)を決めて自動で送れるようにする
- 50人を超えたら安否確認サービスを検討する。選ぶときは自動送信、複数の連絡手段、集計画面、料金、連絡先の更新方法を比べる
- 訓練は年2回以上、予告なしの回も入れる。回答率と回答までの時間を記録し、未回答者への対応を見直す
大きな地震や台風のあと、まず必要になるのは「従業員とその家族は無事か」「明日、誰が出社できるか」という情報です。安否確認の仕組みは、従業員の安全を守るためだけでなく、事業を再開するための判断材料にもなります。備蓄や帰宅困難者対策を含む防災の全体像は「中小企業の防災・BCP」で解説しているので、この記事では安否確認の仕組みづくりに絞ります。
安否確認で決めておくこと
内閣府の「事業継続ガイドライン」でも、災害発生直後の初動対応として、従業員などの安否を確認し、その結果を集約することが挙げられています。いざというときに動けるよう、次の6点を事前に決めておきます。
| 決めること | 内容の例 |
|---|---|
| 誰が | 安否確認の責任者(総務責任者)と代行者2名 |
| いつ | 発動基準(どの災害で、いつ送るか) |
| 何で | 安否確認サービス、チャット、メール、電話連絡網 |
| 何を聞くか | 本人の状況、家族の状況、出社の可否、現在地 |
| どう集計するか | 集計画面、スプレッドシート、部署ごとの集計担当 |
| 未回答者にどうするか | 何時間後に誰が電話するか、自宅を訪ねるか |
会社には、労働者が安全に働けるよう必要な配慮をする義務があります(労働契約法第5条)。災害時に従業員の状況を把握し、出社や帰宅の指示を出せる体制を作ることは、この安全への配慮の一部と考えましょう。
発動基準を決める
| 災害 | 発動基準の例 | 送る人 |
|---|---|---|
| 地震 | 事業所または従業員の居住地域で震度5強以上(サービスの自動送信) | 自動 |
| 津波 | 事業所のある地域に津波警報以上 | 自動 |
| 風水害 | 大雨特別警報など、または安否確認責任者の判断 | 責任者 |
| 事故・火災 | 事業所で火災や大規模な事故が起きたとき | 責任者 |
| 勤務時間外 | 夜間・休日も同じ基準で送る | 自動・責任者 |
自動送信の基準は、事業所の所在地だけでなく、従業員の居住地域も対象にできるか確認します。リモートワークの社員が多い会社では特に重要です。
安否確認の方法を比べる
| 方法 | 向いている規模 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 電話連絡網 | 〜20名程度 | 費用がかからない。電話に慣れた人も使える | 途中で止まると先に伝わらない。災害直後は電話がつながりにくい |
| 社内チャット・メール | 〜50名程度 | 普段使っている道具で始められる | 集計を手作業で行う必要がある。自動送信ができないことが多い |
| 安否確認サービス | 50名以上 | 自動送信、自動集計、未回答者への再送ができる | 月額の費用がかかる。連絡先の登録と更新が必要 |
社員数が50名を超えたら、集計の手間を考えて安否確認サービスの導入を検討するのが現実的です。ただし、サービスを入れても連絡先が古ければ機能しません。登録と更新の運用が重要です。
安否確認サービスの選び方
| 比較ポイント | 確認すること |
|---|---|
| 自動送信 | 気象庁の地震・津波情報などに連動して自動送信できるか。対象地域を細かく設定できるか |
| 連絡手段 | メール、アプリのプッシュ通知、SMS、音声電話など複数の手段で送れるか |
| 回答のしやすさ | ログインなしで回答できるか。選択式で数タップで答えられるか |
| 家族の安否 | 家族の安否確認や、家族への伝言の機能があるか |
| 集計画面 | 部署別・拠点別の回答状況が一目で分かるか。未回答者の一覧を出せるか |
| 管理者 | 管理者を複数置けるか。本社が被災しても別の拠点から操作できるか |
| 連絡先の更新 | 従業員が自分で更新できるか。人事システムや名簿から一括で取り込めるか |
| 安定性 | 大規模災害時でも動くよう、データセンターの分散などの対策がとられているか |
| 料金 | 初期費用、月額費用(人数による段階)、最低契約期間 |
| 情報の管理 | 個人情報の保管場所、契約終了時のデータ削除 |
複数のサービスで無料のお試し期間を使い、実際に訓練を1回行ってから決めると失敗が少なくなります。
質問項目は少なく
災害直後は、従業員も落ち着いて入力できません。質問は選択式で3〜5問に絞ります。
| 質問 | 選択肢の例 |
|---|---|
| あなたの状況 | 無事/軽傷/重傷(救助・治療が必要) |
| 家族の状況 | 全員無事/けが人あり/連絡がとれない |
| 自宅の状況 | 被害なし/一部損壊/住めない |
| 出社の可否 | 出社できる/出社できない/分からない |
| 現在地・連絡事項 | 自由記述(任意) |
出社の可否は、会社が出社を指示しているかどうかと分けて考えます。大規模な地震の直後は、むやみに移動を始めないことが求められる場合があります。「会社から指示があるまで、安全な場所で待機する」と事前に伝えておきましょう。
連絡先データの管理
安否確認で使う私用の携帯電話番号やメールアドレス、家族の連絡先は個人情報です。
- 利用目的を示して集める:入社時に「災害時の安否確認のため」と目的を伝えて登録してもらう
- アクセスできる人を限定する:安否確認の責任者と代行者だけが見られるようにする
- 定期的に更新する:年1回(訓練の前など)、全員に登録内容の確認を依頼する。入社・退職のたびに登録・削除する
- 管理台帳に載せる:保管場所と管理者を個人情報 管理台帳に記録する
個人情報の取扱いの基本は「中小企業の個人情報・マイナンバー管理の基本」をご覧ください。入社時の登録は、名刺やアカウントの準備と一緒に段取りしておくと漏れません(「入社時の名刺・社員証・アカウント発行の段取り」)。
家族との連絡方法も案内する
従業員が家族の安否を確認できないと、仕事に集中できず、無理に帰宅しようとしがちです。災害時に家族と連絡をとる方法を、従業員に事前に案内しておきます。
| サービス | 内容 |
|---|---|
| 災害用伝言ダイヤル(171) | 電話で音声の伝言を録音・再生できる |
| 災害用伝言板(web171) | インターネットで文字の伝言を登録・確認できる |
| 携帯電話各社の災害用伝言板 | 各社のサービスで文字の伝言を登録・確認できる |
総務省の案内によると、災害用伝言ダイヤルなどは毎月1日・15日や防災週間などに体験利用ができます。訓練の日に合わせて、家族と一緒に試してもらうとよいでしょう。
訓練の進め方
安否確認は、訓練をしないと本番で使えません。年2回以上を目安に行います。
| 回 | 時期の例 | 内容 |
|---|---|---|
| 1回目 | 9月(防災週間) | 予告ありで全員に送信。回答方法を確認する |
| 2回目 | 1月または3月 | 予告なし、または勤務時間外に送信。実際に近い状況で確認する |
| 随時 | 入社時 | 新しく入った人に、テスト送信で回答方法を体験してもらう |
訓練で記録すること
- 回答率(全体・部署別)
- 回答までの時間(30分以内、1時間以内、3時間以内の割合)
- 未回答者の理由(連絡先が古い、通知をオフにしていた、使い方が分からない)
- 責任者・代行者が集計画面を操作できたか
訓練の結果は全社に共有し、未回答だった人には個別に登録内容を確認します。回答率の目標は、1時間以内に8割以上などと具体的に決めると改善しやすくなります。年間の防災の取組は防災・BCP 備えチェックリストで点検できます。
安否確認の後にやること
安否確認は、事業を続けるための最初の段階です。回答を集めたら、次の判断につなげます。
- けが人や連絡がとれない人への対応(救助の要請、家族への連絡)
- 出社できる人数の把握と、優先して続ける業務の決定
- 出社・自宅待機・テレワークの指示
- 被災した従業員への支援(休暇の扱い、見舞金、生活の支援)
給与計算や社会保険の手続きなど、止められない業務を誰が代わりに行うかも決めておきましょう(「中小企業の防災・BCP」の「小さく始めるBCP」)。
まとめ
- 安否確認は「誰が・いつ・何で・何を聞き・どう集計するか」と発動基準を事前に決めておく
- 50名を超えたら安否確認サービスを検討する。自動送信・複数の連絡手段・集計画面・連絡先の更新方法を比べる
- 訓練は年2回以上、予告なしの回も入れ、回答率と回答時間を記録して改善する